こんにちは。
古里の浜の海岸を散策した僕たちは護岸の階段を上がり島の散策コースに戻った。
草原だか道だか分からないような道を頼りにしばらく歩くと、ようやく生活道路のような舗装された道に出た。
ここからは緩やかな上り坂の連続だ。山肌を縫うように道は右へ左へとくねる。山の中腹の所々に直径3~4メートルのいけすのようなものがあって水が溜まっているが、何かを養殖している様子はない。何だろう?
生活道路とは言っても斜度はある。息を切らしながら上っていくと「鏡石」の札が見えた。
半分以上は草に覆われどこが鏡なのかはよく分からないが、昔、女たちがこの岩に油を塗って鏡にしたという言い伝えがあるそうだ。ただし、小説には出てこない。
鶯が間近で鳴いて、思わずカミさんが鳴き真似をする。かすれたウグイスだ。(笑)
ここからさらに上に上っていくと旧小学校の石の表札が残っていた。建物が残されているのかどうかは確かめなかったが機会があれば探検してみたいところだ。
道で標識を見つけた。道は間違っていないようである。間違うほどの沢山の道は無いが。(笑)
途中で二股に分かれる道があった。右側の道からは山を吹き抜ける風が渡って心地よい。
どっちだろう?
右の道を少し上ってみた。 海と集落の屋根が見える。おそらくこの道は集落の山側に抜ける道だろう。
僕たちは左にまっすぐ行くことにした。
それまで上りだった道は下りに転じ、足取りは心なし軽くなる。
左にNTT の電話交換所があり、その先の道は右にカーブしている。もうすぐ散策路のフィナーレだ。
真っ赤に錆びたガードレール越しに木々に見え隠れする港が次第に近くなる。
そしていよいよ潮騒広場-スタート地点に戻った。ぐる~っと島を一周したわけだ。旅館の女将によれば2時間もあれば1周出来るとのことだったが、現在5時30分。出発したのが2時15分頃だったからざっと3時間15分かかったわけである。健脚ならばもっと速く一周できたろうが僕たちは要所要所をゆっくりと探訪できた。
まだ夕食には少し時間がある。まだまだ明るいのですぐ隣の船揚場を見てデキ王子の塚を探しに行く。
ここが船揚場。映画で新治と初江が初めて出会う場だ。小説とは出会い方がちょっと違う。
(映画「潮騒」より)
動画で僕は当時船揚場は砂浜だったと言っているが映画を見るとそんなことはない。ちゃんとコンクリートが張られている。テキトーなこと言ってすみません。
だから映画の当時とは大きくは変わっていないと思われます。
次にデキ王子の塚を探す。島の人に何人か聞いたがよく分からない。最後に聞いたお年寄りが「そこの家の隣に塚があるが、それかもしれん。」と教えてくれた。
それがこれだ。
塚とは言ってもうっかりすると見過ごしてしまいそうな簡素なものだ。
もう少し近くで見てみよう。塚は小さな石を積み上げただけのものなので島民や風雨によって少しずつ形を変えているかもしれない。島民が植えたのかオモトが塚を飾っている。
ここでデキ王子について触れておくと、
デキ王子とは後醍醐天皇の8人の王子の一人で、この島に来たという言い伝えがあり、
「デキ王子、カツ王子、セト王子、カツメ王子の四つの塚が現存している。内三つの塚は村落内の家並みに挟まれた狭い場所にあり、塚とは見極めがたい状態にあるか、デキ王子の塚と呼ばれるものだけが集落から少し離れた場所にあり、いかにも塚らしく見える。残る四か所はまだ見つかっていない。」(鳥羽市観光情報サイトより)
三島由紀夫はこの塚について次のように述べている。
「(前略) とまれ(ともあれ)古い昔にどこかの遥かな国の王子が、黄金の船に乗ってこの島に流れついた。王子は島の娘を娶り、死んだ後には陵に埋められたのである。王子の生涯が何の口碑も残さず、附会され仮託されがちなどんな悲劇的な物語もその王子に託されて語られなかったということは、たとえこの伝説が事実であったにしろ、おそらく歌島(神島)での王子の生涯が、物語を生む余地もないほどに幸福なものであったということを暗示する。
多分デキ王子は知られざる土地に天降った天使であった。王子は地上の生涯を、世に知られることなく送ったが、追っても追っても幸福と天寵は彼の身を離れなかった。そこで屍は何の物語も残さずに、美しい古里の浜と八丈ヶ島を見下ろす陵に埋められたのである。」
この記述を見ると残念ながら写真の塚ではなさそうだ。ここからは古里の浜も八丈ヶ島(巨岩)も見えないから。
ともあれ、天皇の子が後継者争いにも巻き込まれずに、小さなこの島で静かに、幸せに満ちた生涯を送ったと思うと、なんともほっこりする話しである。
きょうの最後の訪問先は寺田さん宅だ。この家は洗濯場の斜め左上にある赤い屋根の家で、当時の村長さんの家だそうだ。
三島由紀夫はここに約1か月もの間寝泊まりし、島の人と生活を共に送りながら「潮騒」を書きあげたそうだ。
寺田さんは今は島を出られ、ここは空き家になっているという。 ここで三島由紀夫が島を歩きながら小説を練り上げていったかと思うと感慨もひとしおだ。
さぁ、今夜はご馳走だぞ!