館長の気ままな日記

三河工芸ガラス美術館の館長(オーナー) " カズ " こと神谷一彦の勝手気ままな独り言です。

三河工芸の館長が書く日記です

最後の旅行

こんにちは。

きょうは雨模様の土曜日、午前と夜のステンド教室の日だ。

そんな合間に家族連れの体験があった。バーナーワークが3名と万華鏡体験が2名、ほか3名は付き添いでテラスで待っていた。

 

カミさんがバーナーワークで、僕がお相手して差し上げたのは万華鏡のお二人だ。男性と女性のカップルで年のころは男性が70代、女性が60代と見た。

 

男性はグレーのスラックスに紺のジャケット、女性は白地に紺の細かい水玉模様のあるゆったりとした薄手のワンピースだった。気が付くと女性は左手首にタグが巻かれていた。 名古屋市の〇〇病院と書かれている。

やや血の気のない青白い顔色で、髪は短くまばらである。

 

ご病気なのだろうか?と思いながらも余計なことは聞かない。

 

万華鏡の難しい鏡の組み立ては、こちらが代行して差し上げることもあるのだが、女性はあえて難しいことにもチャレンジしようとしている。

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窓の外では隣の田んぼの蛙が騒がしく鳴いている。

「蛙の声ね‥、癒されるわぁ‥。」 女性が静かにつぶやいた。

 

万華鏡作品が完成し、お帰りになるときにご主人が「それじゃ行くか?」と奥さんに声を掛けられた。

奥さんは腰に手を当てて背伸びをするように反った後、「多分大丈夫。何かあったら救急車を呼んでね。」と笑って言った。これから蒲郡市の温泉に行くという。

 

さすがに僕が「ご病気の療養中なんですか?」とご主人に尋ねると、

 

「多分最後の旅行になるから、行くなら今だよって医者に言われたんでね、家族で温泉に行く事にしたんだよ。抗ガン剤を打っているから髪も抜けちゃってね。」

僕が奥さんだと思っていたのは実はご主人の娘さんだった。歳は50代だろう。

 

こういう仕事をしているといろんな境遇のお客様をお相手する。以前白血病の少女の体験をお相手したことがあったが、僕たちのおもてなしが最後の思い出作りのお手伝いになることもある。

娘さんは楽しかったと微笑みながら美術館を後にした。

 

人間いつかは死ぬものだ。天寿を全うして穏やかに逝けるのが理想であるけれど、仮に病気で死ぬとしたら脳卒中や心臓病で突然死ぬより癌の方がいいかもしれない、と最近思う。なぜなら人生最後の時間を家族や大切な人に感謝しながら過ごせるから。

 

震災やきのうの橋桁落下の事故で突然人生が奪われるよりずっといい。

 

娘さんの残された時間が愛に満ちた安らかなものになりますように。