こんにちは。
何度も検図した甲斐あって、部品を作り直さなければならないような大きなトラブルはなかった。
小さな調整はあったようだが機械設計ではたいていつきものなので、そのあたりは野口組長が修正しながら組み付けたようで特に僕に知らされることはなかった。
完成した研削盤はすでにラインに組み込まれ、製品を研磨していた。もちろん、自動である。
「神谷君、ようやったな。」野口組長が後ろからにこにこしながら僕の肩をたたいた。
「ありがとうございます!野口組長のおかげですよ。」
僕はしばらくの間、機械が黙々と製品を仕上げるのを眺めていた。
このプロジェクトが社内QCコンペで賞を取り、依頼主の生産技術課Mさんは平社員から係長に昇進した。
周りの同僚は口々に「M係長、昇進おめでとうございます。」と昇進を祝った。もちろん、僕も祝いの言葉を贈った。
M係長は、「うん、ありがとう。」 落ち着いた口調で答えた。
だけど僕は内心苦々しい気持ちだった。
部品製作を依頼した外注先に打ち合わせに行ったときのことだ。生産技術の人間3人と出かけたとき僕も車に同乗させてもらった。
(イメージ)
Mさんは社内でこのプロジェクトがうまくいったら必ず賞が取れると、自分の武勇伝を交えながら意気揚々と語り始めた。そのうち同乗していたF係長が僕の設計のある部分を批評した。F係長はMさんの上司だ。
F係長 「あそこのところを**にしなかったのが残念だったね。」
Mさん 「そうですよね、あそこはちょっと失敗でしたね。」
ちょっと待ってよ。確かに設計は僕だけど、そうしてくれと指示したのはMさんだ。まるで僕のせいだという言い方だ。
僕は「でも、あれはMさんの指示による物ですよ・・・。」ちょっぴり反論した。
Mさんは、俺は関係ないという顔で、
「神谷くーん、そういうことは言わない方がいいよぉ。」と、あごをしゃくった。
Mさんは出世欲の強い人で部下の手柄は自分の手柄、自分の失敗は部下のせいといったしたたかな人だった。だから快く思わない人も少なからずいたのだ。